昨年12月、米国中西部の広範囲を襲った竜巻の影響でイリノイ州にあるAmazonの物流倉庫が倒壊したことは、フォーチュン500に入る大企業も異常気象と無縁ではないことを改めて示しました。10年前なら無縁でいられたかもしれませんが、今は違います。
不幸にも米国は昨年1年間、今までに起きなかった大寒波によるテキサス州の送電網の障害、史上6番目の被害をもたらしたハリケーン「アイダ」、西部で相次ぎ発生した山火事など、甚大な被害を伴う自然災害に何度も見舞われてきました。災害により、電力網や輸送網などの脆弱な公共インフラは壊滅状態となり、それらに依存していた企業は、自社の資産の被災の有無にかかわらず麻痺状態に陥りました。
近年、気候変動の影響で、数千もの家庭・企業や、地域社会そのものに被害をもたらす自然災害や異常気象の発生頻度が高まっています。過去30年間で考えると、被害額が10億ドルを超える気象・気候災害の米国での発生件数は10年間で58件であったのに対しが直近10年間では、145件と増加しており(30年間で241%の増加)、被保険物の被害額は5,510億ドルを超えると推定されます。
このデータが示唆しているのは、企業のCEOは今後10年のうちに、気候変動を原因とする重大リスクになにかしらの対応が必要になるだろうということです。
洪水、高潮、山火事、熱波、竜巻、インフラ障害などの重大災害は、今後10年、さらに増加することが予想されます。また、気候変動により、これまで全く想定していなかった地域でも洪水リスクが生じるようになるでしょう。
万能な解決策などなく、各業界はそれぞれ異なる課題に対処する必要がありますし、地域や災害の種類によっても対応は異なります。
ホテル業界は、自然災害で家を失った被災者の避難場所になることはもちろん、山火事、洪水、ハリケーンなどに伴う停電に、より頻繁に対応することになるでしょう。物流業界は、従業員の自宅待機や重要インフラの停止による事業中断を考慮に入れなければなりません。銀行業界は、財務安定性を維持するために、災害が起きやすい地域の不動産ポートフォリオを注視する必要があります。そして電気、ガス、水道などの公益事業は、深刻化する熱波や寒波、水害の影響に耐えられることを求められるでしょう。
格付け会社ムーディーズによると、自然災害による金融リスクは、世界全体で18業種に7.2兆ドルの負債をもたらすといいます。
気候変動や異常気象の影響で収益が失われれば、フォーチュン500企業は痛手を負い、米国経済の屋台骨である小規模企業は壊滅してしまうかもしれません。環境情報開示の推進に取り組む非営利団体CDPによると、商品・サービスを提供する企業8,000社の1.26兆ドル相当の収益が気候リスクにさらされています。
今こそ気候変動の対応に、役員の方々だけでなく現場においても、最優先で取り組むべきです。この何年かで気候変動対応は重要事項の1つにはなったものの、まだ最優先事項にはなっていません。世界経済フォーラムが最近発表した「グローバルリスク報告書2022年版」によると、世界の回答者全体では「気候変動対策の失敗」が世界にとって最大の脅威として挙げられています。しかし米国では「大規模経済圏の資産バブル崩壊」が最大の脅威とされ、次いで「気候変動対策の失敗」、「異常気象」となっています。
気候変動が顕在化してこなかったため、CEOたちは何年もその対応を迫られてきませんでした。しかし今、気候変動により引き起こされる甚大な自然災害のリスクに直面しつつあります。
気候関連リスクに対応するには、気候レジリエンスを企業のガバナンスおよびリスク部門に組み込む必要があります。最高リスク管理責任者や最高サステナビリティ責任者は、今は気候レジリエンスに先手を打って取り組むための権限を与えられていませんが、そうした権限を彼らに与えるべきです。あるいは、気候変動の影響を見越して対策することのみに専念する最高レジリエンス責任者を、CEOが任命してもいいでしょう。
危機管理チームは、災害に見舞われる間際になって初めて設置・招集されるのが実態ですが、脅威を最小限に抑えるには、緊急時以外も常時活動していなければなりません。最後に、企業は事後的ではなく予防的な対策を取り始める必要があります。
時間は待ってくれません。
CEOが自社の施設、オペレーション、必要なインフラに対する自然災害リスクや気候関連リスクを洗い出し、理解するために残された時間は、刻一刻と失われつつあるのです。
アマッド・ワニ:気候レジリエンステクノロジー企業、One Concernの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)