One Concernでは、レジリエンスモデルの向上に向けた弛まぬ努力の一環として、最新の調査・研究の結果やモデルのアップデートについてレビューをしていただくために、テクニカルワーキンググループと定期的にミーティングを行っています。テクニカルワーキンググループは災害科学、データサイエンス、エンジニアリング、水文学の分野における外部の専門家で構成され、アカデミックの分野における最新知識を裏付けとした見識や見解の提供を通じて、One Concernによるハザードモデルや気候レジリエンスモデルの開発を支援しています。
日本の洪水モデル
世界の人口の約半数は海岸・河岸沿い、またはそれに近いところに暮らしており、その多くが水に依存した生活を送り、地域社会は海岸インフラに依拠した産業で成り立っています。そのため、洪水モデルの作成は以前から当社にとっての優先課題でした。河川の洪水モデルはレーダー雨量データを入力データとし、日本全国の情報源から収集した河川流量データによって検証されています。One Concernは、過去に台風が発生した際の潮汐変動、気圧、風の動きといったデータを活用し、沿岸部で想定される洪水を推定します。都市部の洪水に関しても河川モデルと同様の雨量データを用いますが、特に人口の多い都市部のモデル化を重視しています。
テクニカルワーキンググループは、One Concernが洪水モデルによって作成したデータが実際の洪水の実測のピーク値と一致していることを確認し、当社の洪水モデルについて、「幅広い範囲をカバーし、広く認められた複数の最先端モデルを、シームレスかつ高度に組み合わせている」と評価しました。さらに、テクニカルワーキンググループは、実測値を入手できないデータの不足を補うために機械学習を活用してデータを生成する当社の手法について、「データの欠如に対処する革新的なアプローチである」と評価しました。
今後は以下のようなアップデートを計画しています。
· 氾濫モデルで堤防が海抜で表示されていることによる堤防の最大高の過小評価、および河川モデルで河道が方形で示されていることによる氾濫原の通水力と保水力の過小評価。
· 河川モデルでキネマティックウェーブ法を用いることによるピーク時の洪水流量の過大評価、沿岸モデルで増加させた風速を用いて砕波時のラジエーションストレスによる水位を設定していることによる高潮の過大評価、都市モデルで雨水排水設備や地下トンネルの保水力や通水力を無視していることによる累積雨量の過大評価、氾濫モデルで排水設備を考慮していないことによる滞水の過大評価、氾濫モデルで土地の利用に起因する地表の凹凸を考慮していないことによる洪水範囲の過大評価。
· 河川モデルとダム運用で融雪を考慮していないことによる基本流量の誤差。この点に関しては、One Concernは融雪の影響を考慮すべきとの指摘を得た時点から改善に取り組んでいます。
地震被害モデル
地震被害は、これまでモデルで推定することが困難と言われてきました。これは、建築材料(木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造など)、建物用途(住宅、商業施設、工場施設など)、築年数といった建物の特性が多岐にわたり、またモデルの調整や検証に行うためのデータが限られていたためです。One Concernによるモデル化について、テクニカルワーキンググループは以下のように述べています。
「HAZUSのように地域ごとの被害や損失を分析するソフトウェアと異なり、One Concernのクラウドベースのプラットフォームは将来有望な新しいアプローチを提供します。機械学習(ML)と人工知能(AI)による統計的技術を活用し、実際に観測されたデータとシミュレーションされたデータを融合することで、地震による振動、詳細な建物データから、地震による被害と復旧にかかる時間を推定します。このアプローチにより、幅広い分野で急速に改良が進むML/AI技術の進展と共に、災害や被害の予測も一気に進歩していくでしょう」。
One Concernによるモデルの検証結果については、「日本の熊本地震や米国カリフォルニア州のノースリッジ地震で観測されたデータや、同州ヘイワード断層上で今後予想される地震の想定データとかなり一致しています」。2020年以降、One Concernは、1995年の阪神大震災など実際の地震で観測されたデータや、さまざまなシミュレーションから得られたデータ、および日本の国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用するKiK-net(基盤強震観測網)やK-Net(全国強震観測網)といった最新の地震観測網に基づいた現在の地震動マップを用い、機械学習モデルの拡張、検証、調整、向上を続けてきました。さらに、建物データベースの構築においては、データが限られている状況でも最先端のデータ補完技術を用いて欠測値を補完することができるようになりました。
次回のモデルアップデートでは、ML/AIによる日本の被害予測モデルのさらなる向上を目指します。
地震建物データ作成モデル
One Concernは昨年、米国のさまざまな情報源から収集したデータを統合しインプットすることで高解像度な建物データベースを作成するモデルを開発し、検証しました。当社の取り組みはこれで終わらず、地震リスクの高い地域の建物の属性情報や被害/損失データを活用することによって、ML/AIモデルの中で建物の属性情報、被害、損失に関する部分について向上と評価を継続していく予定です。
地震復旧モデル
One Concernが取り組んでいるもう一つの分野が、レジリエンスプランニングにおいて不可欠な復旧モデルです。復旧時間とはレジリエンスを測定する一つの基準であり、地域社会が自然災害から立ち直る能力を表します。私たちの世界は極めて複雑に絡み合い、相互の依存関係が幾重にも重なっているため、そうした要素が復旧時間を左右することがあります。例えば、自然災害で直接的な被害を被っていないように見える建物でも、水や電気といった基本インフラが被害を受けているという可能性があります。港や工場が停電したり、道路や橋の損傷によって従業員が安全に出勤できなかったりすれば、事実上の操業停止となります。この点に関して、テクニカルワーキンググループは次のように述べています。
「復旧時間は間接的損失や地域社会のレジリエンスを測る重要な基準であるとの認識が高まりつつある中で、(直接の被害や、修復費用などの経済損失に加えて)復旧時間を自社の地震モデルに組み込んだOne Concernの取り組みは高く評価できます。復旧モデルがまだ学界からあまり注目されない状況において、One Concernのモデル化プラットフォームは、地震の規模に合わせてより大規模に展開したり、リソースの確保やライフライン(水や電気など)まで含めた復旧評価を行ったりなど、今後さらなる建物復旧モデルをテスト/評価する上での極めて重要なリソースとなるでしょう」。
石油やガスのサプライチェーンが被害を受けると、交通機関・輸送機関や発電所の復旧に影響が及びます。このサプライチェーンの中で、重要な施設が、液体の貯蔵や輸送に対応できるコンテナ港です。One Concernは、このような港もモデルの対象にすることを検討しています。最後に、当社は今後もレジリエンスプランニングのための最先端のモデルの開発を継続し、さまざまなインフラシステムの「パフォーマンス機能」を明確化する分かりやすい指標の定義、採用、共有に取り組んでいく所存です。